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アルメニア在住経験者によるエッセイ、生活情報、写真。アルメニア語講座。

(22) アルメニアを後にして

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アルメニアから一時帰国した。日本での生活は快適この上ない。
しかし、毎日トラブルに見舞われたアルメニアでの生活を思い出すといささか物足りないようにも感じる。

毎日、毎日何かしら変な事が起こってその度に気を揉んだ。アルメニアに限らず、CIS全般で事がスムーズに運ぶという事はまずナイ!それに加えて、特にアルメニアは生活環境の苛酷さという点で熾烈さを極めている。お湯の残量を確認しながらシャワーを浴びなくてはならない生活、水が出なくてトイレが流せなかった生活、顔も洗えない生活、恐ろしく冷たい水で洗濯物を手洗いしなければならない生活、部屋の中まで「マイナス!」という、恐ろしい冬のアルメニアでの生活、etc、、、

思い出したら困難の数は数え切れない程だ。(よく生きてるな、俺ってば)

日本ではアルメニアに関する文献は極端に少ない。あったとしても主にアルメニア民族の生い立ち、歴史、そしてジェノサイドをスポットにあてた本が殆どで、今現在のアルメニアについて書いている本は皆無だ。

ソヴィエト時代にしても、アルメニアはソヴィエト連邦の15の構成国の一つとして取り上げられるだけで、アルメニア単独で扱った文献に関しては残念ながら図書館でも大きな本屋でも見た事が無い。

今現在、独立してアルメニア共和国となったアルメニアの現状についてはやはりアルメニアに実際に住んでいる(いた)人間が書くべきだと思う。日本人の殆どはアルメニアという国の事なんて知らないだろう。名前すらも知らない人が多いと思う。残念な事だが仕方が無い。

しかし、アルメニアに興味を持ってくれる人だけがこのホームページを見てくれているのだと思う。そんな物好きな人の為にこのホームページは存在する(?)。

10年程前に独立して間もない国なのだから、アルメニアは歴史こそ長いけれど国家としてはまだまだ「新興国」なのである。昔は巨大なソヴィエトの一部でしかなかった。これからもしかしたら注目されるかもしれない。日本からの旅行者も増えるかもしれない。

しかし、アルメニアに関して余りにも良いイメージだけを詰め込んでアルメニアに旅行する、または留学する、住む、というのは少し危険だと思う。中には、アルメニアを「世界一、素晴らしい国」のように吹聴する日本人も居る。
コレはやはり危険だ。物事の表裏はキチンと見なければならない。なので、日本人が実際に生活して見た「本当のアルメニア」に関して思う事を日本に帰った今、ツラツラと書いてみようと思う。

まず、「アルメニアは良い国か?」という事は誰もが知りたい事だと思う。コレに関してはデータが証明している。独立直後から総人口の四分の一にあたる100万人弱のアルメニア人がアルメニアを後にした。(正確には、89万人と新聞には書いてあった。)理由は様々だが、こんなに人が出て行ったのはCISではアルメニアだけだろう。日本から3000万人もの人が何処かに移住する事を想像してみて欲しい。

僕ならこう言う。「100万人弱の人が出て行った国が良い国なワケがナイッ!」と。

実際、アルメニアは「生活環境」という点を無視しても生活するのは大変な国だ。結構、過激に足を引っ張り合い、食うか食われるかの生活を皆送っている。今でも海外に移住する事を希望する人は後を絶たない。

移住を希望する男性は「兵役拒否」が主な理由。しかし、女性の場合は理由が様々だ。アルメニア男性にいい加減、愛想を尽かした女性も居る。仲良しだった頭の良いタテヴィクもその一人。彼女は本当に素敵な女性だった。

肌が真っ白で、天然のブロンドで、青い目をした美人で性格温厚なアナヒダも「もうコレ以上、この国には住みたくない。」と言って、カナダ生まれのアルメニア人と結婚してアルメニアを出て行ってしまう。他にも、アルメニア滞在中にアルメニアを出て行った女の子は沢山居た。若くて、才能溢れる「美人」からこの国をアトにする傾向があるらしい。

コレは真面目な話、アルメニアにとって物凄く大きな国家危機だ。

結構、ヨーロッパや北米、南米、中東で生まれたアルメニア人男性は自分の「アルメニア人としてのアイデンティティー」を繋ぎとめておきたいと思うからか、よくアルメニアに嫁探しに来る。で、実際に結婚する。今は、少しヴィザの発給が困難らしい。一人だけ、アルメニア生まれのアルメニア人女性と結婚して今現在アルメニアに住んでいるイスラエル生まれのアルメニア人に会った事があるが。(彼の風貌はアルメニア人っぽくなかった。)

勿論、そうなると当然「美人」が真っ先に目を付けられるワケで、ジワジワとアルメニア人からは「美人」が流出していくのである。そして、残るは、、、?

僕は、アルメニアに良い友達が沢山居る。その中の数人は一生付き合えるような人達だ。だが、今現在の「アルメニア共和国」が良い国だとは言えないし、思えない。ある意味、「生きるか死ぬか」の熾烈な社会だし、国家も国民の事など微塵も考えていない。これから政治的にも経済的にも良くなる事が幾らかでもあって、人々に精神的な余裕が生まれる頃のアルメニアは今とはだいぶ違うだろう。そんなアルメニアをいつか見てみたい。

とにかく、住んでいる間はアルメニア人にイヤな思いを沢山させられた。しかし、人間不信にまではならなかった。それ相応の気構えでアルメニア人に接していたからだ。悪い奴にも沢山会ったが、親切で付き合う事が楽しいアルメニア人とも出会えた。良い国か悪い国かを判断した上で、アルメニア、及びCISを好きになるか嫌いになるかは別の話なのだ。

トビリシに住む「やぶ蚊さん」は、僕以上にグルジア人にトンデモナイ目に遭わされている。しかし、彼はそれでもグルジアの事が好きだと言うし、実際に長く住んでいる。厳しい事を言ったとしても、それはその国に対する愛情の裏返しなのではなかろうか?もし、本当にどうでも良い国なら僕もやぶ蚊さんも荷物をまとめてサッサと国を後にしただろう。(僕もやぶ蚊さんも仕事があるので、思った時にカフカスから抜け出せないのだが、、、)

この「旧ソ連圏(主にCIS)」はとにかく特殊な地域だ。住んだ人、旅行で訪れる人の感想は様々で「好き」か「嫌い」の両極端に分かれる。僕は、文句を言いながらもコーカサス生活の楽しさをソコソコ満喫している日本人かもしれない。

一人で地方の小さな村を訪ね歩く楽しさや、文化的な要素に関してのアルメニアはとても興味深い。地方によって様々な文化があり、アルメニア人以外の民族も住んでいる。「カフカス」という、日本人には神秘的で謎が多くて不思議な特殊な地域に住むにはそれなりの覚悟と根性と不屈の忍耐力が必要だけれども、タイムスリップしたかのような古い伝統や、文化を楽しみたい人にはうってつけの場所でもある。

だけど、やはりアルメニア人は百戦錬磨の旧ソ連人の中でもとりわけ目先が利くし、悪く言えば「ズル賢い」し、お金が絡むと本性が剥き出しになってくる。「お金」の事で揉めるのは日本人としてイヤだが、コレは真正面から向き合わなければ
ならない切実な問題だ。やはり、大なり小なりの額を日本人はヤラれているらしい。

大陸文化を紡ぎ、中東とヨーロッパとアジアの交易の中継地点となったこのコーカサスで「商業と貿易の民」として活躍していた姿が頭に浮かぶ。手強い交渉相手であるアルメニア人は「シルクロード」の主役だったのかもしれない。それに加えて、「ソヴィエト」という特殊で閉鎖的なフィルターが覆い被さった。まさにアルメニア人は「最強」である。「詭弁」を言わせたらソ連人右に出る者は居ない。

アルメニア人って本当に論理構造がねじれてるよ。もう、本当に疲れる、、、

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ココからは、幾つか日本人がよく口にする見えにくい疑問点等を書こうと思う。

よく日本人はアルメニア人とユダヤ人を比較したがる。同じ「ジェノサイド」の歴史を持ち、世界各国に散らばる「ディアスポラの民」だからだろうか?そして、「商業と交易の民」と呼ばれているからだろうか?アルメニア人は一般的に「商売上手」だと思われているらしい。そんな事を根拠に、不思議なくらいアルメニア人とユダヤ人を比べだがるようだ。実際、その手の質問メールも沢山頂いた。

昔のアルメニア人はどうだったのか分からない。しかし、今のアルメニア人に関して言えばハッキリ言って「ソヴィエト人商法」である。人によっては「詐欺」と感じるかもしれない。個人的に目先は利くけれども、結構「マヌケ」な事をする人達だと感じる。ソ連人らしく、働きたがらない人も多い。僕はアルメニア人は普通の「旧ソ連人」だと思う。

ココで一つ旅行者の為に書いておこうと思う。

アルメニア人は結構ユダヤ人を嫌っている、またはあまり良く思っていない人が多い。アルメニア人のユダヤ人に対する感情は、ロシア人、ヨーロッパ人、中東のムスリムが抱く感情のソレとほぼ一緒だ。つまり、「金に汚く、ズル賢い」とアルメニア人も言う。なので、ユダヤ人と比較される事を快く思っていないアルメニア人は意外に多い。

しかし、ユダヤ人はアルメニア人に「金に汚く、ズル賢い」と言われるんだから大した連中だと思う。アルメニア人以上に連中はしたたかなのだろうか?

残念ながら、僕はユダヤ人の友達は一人しか居ない。彼は、アルメニア生まれだ。なので、ユダヤ人がどういう人達かを書く事は出来ない。彼しか知らないのだから。彼は普通の青年だった。所謂、濃い顔をした「セム系」のユダヤ人だ。どちらかと言うとナイーブで、アルメニアの事もイスラエルの事も好きではないらしい。幼少期はユダヤ人であるが故にアルメニア人に除け者にされたりしたそうだ。

父親に連れられてイスラエルに渡ったが、イスラエルもやはり彼にとっては心から落ち着ける場所ではないらしい。恋した女性が麻薬中毒で急死してしまい、酒を浴びるほど飲んで心臓麻痺を起こして病院に担ぎ込まれるくらいナイーブな青年だ。(この時は本当に心配した。)常に非常事態にあるイスラエルでの生活の心労も幾らかあるのだろう。

そんな彼もお医者さんをしているお姉さんと一緒にアメリカに移住することを希望している。一番の理由が、どうも女性にあるらしい。嘘か本当かは知らないが、彼がくれたメールによると「イスラエルの女性は昼間は真面目に大学生をしているケド、夜になると皆娼婦として働いている。この国の女と結婚するだなんてトンデモナイッ!」と書いていた。

貞操観念の強いアルメニア女性を見て育った彼には、イスラエル女性の性の自由奔放さについて行けないらしい。「イスラエル女性とは恋なんてするもんじゃない!」と書いていた。彼ももしかしたら、アルメニアに嫁探しに来る予備軍かもしれない。

そう言えば、ネタニヤフ前首相も愛人問題が発覚した時は開き直ってましたっけね。ユダヤ人は結構、「性」に関してはオープンなのかもしれない。

もう一つ、彼は「セム系」の顔立ちだからか東欧辺りから来たユダヤ人とはどうも上手くやっていけないらしい。何がしかの「壁」が有ると言っていた。

CISにおけるコーカサス人とユダヤ人の関係は面白い比較だが、アルメニア人の前で話すのは極力避けた方が良い。全く「似て異なる民族」である。

「スムガイト事件が発生し、ナゴルノカラバフ戦争が始まった時にロシアのユダヤ人ロビーは一斉にアルメニア擁護に回ったじゃないか!」という人も居るかもしれない。確かに、それは事実。ユダヤ人ロビーに突き動かされてロシア軍はアゼルバイジャンに介入したのかどうかは分からない。しかし、だからと言ってユダヤ人がアルメニア人に対して親近感を
抱いているという証拠にはならない。では、何故ユダヤ人ロビーはアルメニアを擁護したのか?

答えは簡単だ。アルメニアにイスラエルの大使館は無いがイスラエルの「利権」がこんな小さなアルメニアには沢山あるからだ。コレは実際この目で見た事だから間違い無い。
ユダヤ人だって、何の得にもならない事に体を張ったりはしないだろう。ソコには冷徹に計算された「勘定」があるのだ。
しかし、それによってアルメニアもユダヤ人やイスラエルから授かる恩恵もあるのだろう。双方メデタシ!という所である。

アルメニアの産業や社会構造の「歪み」に関しては次回の更新時の書こうと思う。


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