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アルメニア在住経験者によるエッセイ、生活情報、写真。アルメニア語講座。

(32) 黒い肌、黒いケツ

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2004年の2月6日、モスクワ中心部の地下鉄ザモスクボレツカヤ線パベレツカヤ駅近くで起こった自爆テロの被害者に友人が含まれていないか心配になり、まず最初にロシア人の友人、そしてアルメニア人の友人に電話を掛けてみた。

とにかく繋がり難くて大変だったけれども、友人一同は全員無事との事。

僕がよく見ているロシア系のニュースサイト「gazeta.ru」では、モルドヴァ国籍が一人、アルメニア国籍が二人巻き込まれて亡くなったと書いてあったが、幸いにも友達は含まれていなかったので、胸を撫で下ろした。

しかし、友達が含まれていなかったけれども、亡くなった人は政府の発表を信じるのであれば、39人も居て、重症を負った人、ショックから立ち直れない人も含めれば凄い数になるので、コレはやはり関わりの無い日本人とはいえ、不幸な死に見舞われた人に対して祈るべきだろう。
亡くなられた方のご冥福を心からお祈りいたします。

しかし、「テロ」と「病気」は相手を選ばないのだとつくづく思う。こうした「キ○ガイの大義」の巻き添えを食らって死んだ人は、まさに「犬死」だ。ご冥福を祈ったところで、巻き添えを食らって「犬死」した人達は、死んでも死に切れないのだ。民間人を意図的に巻き込む事を狙ったテロであれば、死んでいく人達の家族の事なんて当然、テロリストの頭の中には無い。何故かって? そりゃ、正常な判断力を失っているのだから。しかし、つくづくキチ○イは失うモノが無いから強いし、何でもアリだと痛感する。

それとは別にロシア人とアルメニア人、それぞれの友人と話していて気が付いた事があった。

ロシア人は「これ以上、モスクワにカフカス人を入れないで欲しい」と言い、アルメニア人は「また、チェチェン人か。アイツ等のお陰で一番割を食うのはモスクワで静かに生活している善良な私達カフカス人だ。」と言っていた。

言葉から滲み出てくる双方の受け止め方の違いには、絶望的な開きがある。

モスクワに流れる空気というのは、カフカスから見る場合は違って見える事がある。その「違い」というのは、日本からだとなかなか見えにくい。日本人には、モスクワにはロシア人しか居ないと思っている人が多いようだが、実際の所、モスクワという大都市の人口の半分近くは「外国人」なのである。

その外国人の中には勿論、日本人やらアメリカ人も含まれているけれども、モスクワに住む圧倒的大多数の外国人というのは、ウクライナ人であったり、カフカス系のアルメニア人、グルジア人、アゼルバイジャン人や中央アジアの人達だったりする。

モスクワの中心に初めて行った時は、とにかくそこら中にカフカス人が居たのでビックリした。「ロシア人は何処に住んでいるのだ?何処に行ったのだ?」と思ったほどだった。露天商のような人達は殆どカフカス人だったし、歩いているのもカフカス人。僕は、何処に来たんだか分らなくなってしまった。それくらいモスクワはカフカス人が多い。

勿論、ロシアで生まれてロシア国籍のアルメニア人も住んでいる。アルメニアには仕事が無いので、出稼ぎでモスクワに来ている人も沢山居る。例えば、友達のカリネちゃんは生まれはイェレヴァンで、大学もアルメニアの大学を出たが、その後はモスクワに出て来て、ロシア国籍を取得し、現在はモスクワに住んでいる。

誰でも、彼でもアルメニア人がロシアの国籍を取得出来るワケではない。祖父母までの代に、生きているロシア国籍のロシア人が居れば、長い事待たされるがロシアの国籍を取得出来るのだそうだ。カリネちゃんの場合は、母方の祖母がロシア人だった。

カリネちゃんに「生まれ育ったアルメニアには住みたくないの?」と聞くと、

「冗談じゃないわよ。たとえアルメニアに住まなきゃ親を殺される羽目になってもアルメニアに住むのだけはイヤだッ!私は、アルメニアがイヤでイヤで仕方が無かったのよ。独立直後に100万人以上のアルメニア人が国外に脱出したけれども、私も含めて常識のあるマトモな人間がアルメニアの現状に耐え切れなくなって出て行ったのよ。残ったのなんて、それこそ何の取柄も無い残りカスだけ。アナタ、3年も住んでいたんだからアルメニアに住んでいる連中の事はよーく分かるでしょう?(ウン、よーく分る。)

テロは怖い。アルメニアにはテロなんて無いし、モスクワよりも治安は遥かに良い。だけど、それでもアルメニアに帰って住むのはイヤだ。絶対にイヤだ!」と言っていた。

多分、こう思っているカフカス人は少なくないのかもしれない。短期間モスクワで働いて、それぞれの祖国に戻る人も居るのだろうけれども、テロの危険性や治安の悪さに耐えてでも、モスクワに居続けたい人の方が多いのだろう。一般的に、特にモスクワのロシア人はカフカス人を嫌っている。彼らを最も嫌う急先鋒が「ネオナチ」であったり、「スキンヘッド」だったりする。

所謂、スラブ系ロシア人がカフカス系人種を指す時の蔑称として用いられる言葉に
「黒い肌(чернокожий)」とか、「黒いケツ(черножопый)」というのがある。

アルメニア人、グルジア人の中には肌が白い人も居るのだけれども、総じてブッとくて黒々した眉毛に、固くて黒々とした毛髪、スラブ人に比べれば確かに肌が黒っぽく見える。しかも、ソコには「カフカス人は腹黒い」だのといったマイナスのイメージも加味されるらしい。だから、ロシア人はカフカス人を最も忌み嫌う。

勿論、元々(ソ連時代)からそうであったワケではないらしい。比較的、ココ最近からこうした傾向が強まったのだそうだ。ロシア人がカフカス人に対して憎悪を抱くきっかけになったのは、やはりチェチェン人がロシア各地で引き起こしている「テロ事件」なのである。

民間人を意図的に巻き込むテロをしているのは、アルメニア人やらグルジア人ではなくてチェチェン人なのである。ならば、憎むべき対象をチェチェンにだけ向けないのは、不思議と言えば不思議なのだが、、、

ここで問題なのは、「黒い肌・黒いケツ」の蔑称がアルメニア人、チェチェン人に限らずカフカス人全体を指している事だ。つまり、チェチェン人が引き起こしたテロの事後に、最も被害を被るのはチェチェンの○チガイ連中にではなくて、普通に静かに意識して目立たないようにモスクワで暮らしている他の「カフカス人」なのである。

モスクワに出稼ぎ・留学などで住んでいるカフカス人の女性は、結構な割合で髪の毛をブロンドに染め上げている。濃い顔立ちなので、日本人の金髪よりもアンバランスなのだが、コレは別にお洒落を意識したのではない。では、何故髪を染めるのか?

後姿で、カフカス人と「ネオナチ」やら「スキンヘッド」に思われないようにする為である。モスクワに出稼ぎに行ったアリョーナという女の子も、イェレヴァンの美容院で髪の毛をブロンドに染め上げてから飛び立った。彼女もモスクワでは、極力目立たないように生活している。

テロを引き起こすのは「チェチェン人」なのである。従って、アルメニア人やらグルジア人はテロとは無関係であり、むしろテロに巻き込まれて死んでいく被害者なのである。ならば、モスクワでもチェチェン人以外のカフカス人は堂々としていれば良い、とCISを分っていない人は言うかもしれないが、そういうワケにはいかないのだ。

外国人が日本人と中国人の見分けが付かないのと同様に、ロシア人にはカフカス人の見分けなんて出来ないのだ。見分けられないと、危険因子である「カフカス人」全てを目の敵にする。従って、チェチェンが引き起こすテロの最大の犠牲者は巻き添えを食らって死んでいった人と、ソコに住むカフカス人達なのである。

ニュースを注意深く読んでいる人なら、ロシア政府が発表する「犯人像」で気が付いた事があると思う。「チェチェン人」とは書かず、「カフカス系」と書かれている事を。


ココまで、テロがモスクワで頻繁に起こる理由は何が原因か考えられた事があるだろうか?それは、チェチェンのキチガ○テロリストによる「ロシア人にカフカス人を嫌って貰う大・自爆テロキャンペーン」の真っ最中だからだ。全く、キチ○イほど手に負えないものはない。

↑そこまで書くかって? 書くぞ! あたかも「テロはいたしかたない」だの「独立を勝ち取る為の戦争」だのといった論調を平気で書き殴る日本国内のチェチェン擁護のロビイストの暴言には本当に辟易しているからだ。

「テロ」を「戦争」だと論じる神経が僕には理解出来ない。そういう事を言う人は、試しにチェチェンの国境付近をほっつき歩いて誘拐された挙句に指をちょん切られたり、残忍な方法で殺されたりしてみると身に染みて分るのかもしれない。或いは、大切な人がテロに巻き込まれるのでも良いだろう。

対岸の火事を「平和が当たり前の日本」から遠まきに眺めながら好き勝手に解釈するオメデタイ人が、日本には多いらしい。しかし、いかなる理屈を並べても「テロ」は正当化する事が出来ない最悪に卑劣な行為なのだ。

プーチン大統領は、「テロは21世紀のペスト」と言った。よくぞ言ってくれた!その通りだ。

「拉致は卑劣なテロ行為」と断定して北朝鮮との対決姿勢を明確に示したその後、全てが尻すぼみになってしまって国民を裏切った何処かの首相よりも、遥かに力強い。コレで、大統領3選は間違い無しだね!頑張ってぇー!ドンドンドン!!!

最早、世界もチェチェン人に同情出来なくなっている。今の状況は、止せば良いのに、アルバニア人がマケドニア(FYROM)の領土まで巻き上げようとして、テロ活動に走り、世界中から大顰蹙を買った挙句、コソヴォでの同情貯金をマイナスにした状況とよく似ている。

何にせよ、「風が吹けば桶屋が儲かる」方式に「チェチェン人が暴れると、カフカス人が憎まれる」という方程式がロシアでは揺るがぬ地位を得ている。チェチェンと国境を接している、グルジア人やアゼルバイジャン人、ダゲスタン人はチェチェン人についてどのような見識を持ち、どのような感情を持っているのか僕は知らない。

しかし、少なくともアルメニア人はチェチェン人の事を「イカレタ民族」と思っているようだ。一人だけチェチェンで生まれたアルメニア人の友達が居るのだが、彼は女の子の受けを狙う為に「俺っち、チェチェン生まれなの。ビン・ラディンとも友達かもよ。アハハハ!」と言う。モスクワでコレを言ったらシャレでは済まされないが、アルメニアではギャグになるのだ。

モスクワに住むアルメニア人達はそうした中で、非常に微妙な立場にある。モノで溢れ返り、今となっては世界の大都市に仲間入りしたモスクワに操をたてれば、同郷のアルメニア人から非難を浴びる。逆の事をすれば、ロシア人から憎まれる。しかし、文句を言ったとしても、やはりアルメニアとは比べ物にならないほどの「経済的自由」と、アルメニアではお目に掛かれない「資本主義の魔法」を味わえるモスクワでの生活を維持したいカフカス人は多いのだ。前述のカリネちゃん同様に。

日本では、ロシアでテロが起きると面白いくらいにチェチェンを擁護する提灯記事で溢れ返る。感情的に書かれた記事を僕は基本的に信用しない。特に、何も分っていない「支援団体」のような連中が一番性質が悪い。最も性質が悪い支援団体のボス格である「グリーンピース」の連中が世界中でしでかす事を見れば、如何に連中が狂信的で、性質の悪い偽善者か分るだろう。

日本人は、とにかくナイーブでセンチメンタル、そして時々ヒステリックになる民族だと思う。だから、おかしな宗教に染まる人もいれば、道義的に見ればおかしな「支援団体」に入れ込んで熱を上げてしまう人が多いのだろう。ハッキリ言うが、どちらも迷惑だ。CISの人達について感心する事は、彼らが常に「正義」と呼ばれるモノを疑っている事だ。

日本人も、巷に溢れ返る「正義」を疑ってみたらどうだろうか?


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