(18) タトゥ、お幸せに
今は20歳の大学生。ジャーナリストになる事を夢見て昼間はホテルのマネージャーとして働き夕方から大学に行って一生懸命に勉強していた女の子でした。そしてとても可愛いです。何でもイタリアやイタリア語に非常に興味があるらしく、「若い時に一度は行きたい!」と言っていました。
彼女は物凄く早口で流暢な英語を喋ります。イタリア語も聞いているだけなら大体理解出来るそうです。ロシア系の学校を出ているから露語も流暢です。そして、勿論アルメニア語も。
毎日、毎日、働いては学校に行っての生活の繰り返しなのでいつも会うと「眠い、、、」とボヤいていました。苦学生だけど、明るくってとてもマジメな努力家なので陰ながらいつも応援していました。
ウクライナに居る時、彼女から受け取ったメールをたまたま読む機会があったのですが思わず腰を抜かすほどビックラこいてしまいました。
「リャンチキ!元気ィ?ねぇねぇ、ビッグニュースよッ!私、結婚するの!相手は誰だと思う?仕事でお客さんとしてホテルに宿泊していたアメリカ人!まだ会って2週間しか経っていないケド、彼にプロポーズされちゃったの!仕事が休みの時に一緒にセヴァンに行ったの!そこでプロポーズされちゃって!明後日に二人で指輪を買いに行くの!帰ったら連絡してね!絶対だよ!!!」
、、、なんという早業ッッッ!読んだ時は思わず開いた口が塞がりませんでしたよ。
若いもんだからミーハーな事をいつも言っていて「イタリア人の背が高い人と結婚したいと思っているのよぉー!」なんて言っていたのにアメリカ人とは、、、
それよりも何よりも、彼女にはアルメニア人の彼氏が居るのです。(居た?)背が高くて、アルメニアの水準で言えば「ハンサム」な部類に入る人だと思うのですが、、、
てっきり、大学を卒業したらその彼と結婚するのだとばかり思っていました。
で、ウクライナから帰って来て早速電話を入れて内容を聞いてみたら、、、
ワシ:「電撃入籍でしたな、、、何があったの?○○○(彼氏の名前)とはどうなったの?」
タトゥ:「あぁ、もういいのよ、あんなヒドイ男の事なんて。彼が私にどんな事言ってたか
知ってるでしょう?彼のお母さんも私にゴチャゴチャ口出しするし、、、
もぅ、私この国を見限ったのよ。未来なんて無いし、それよりも何よりも
たった一度の人生をアルメニアの男と結婚して台無しにするなんて絶対に
イヤッ!」
ワシ:「大学はどうするの?ジャーナリストになるのが夢だって、、、アメリカの大学への編入は基本的に無理だと思うケド、、、」
タトゥ:「今はもう結婚の事で頭がいっぱい!最高に幸せなのよッ!8月末には式をコッチで挙げて9月にはアメリカに行くの!彼もアナタに会いたがってるから今度一緒に会おうね。」
ワシ:「ウン、、、お兄さんが兵役から帰って来てやっと家族4人で暮らせるハズだったのに、、、お母さんはどうなの?」
タトゥ:「毎日泣いている、、、そりゃ私だって家族と会えなくなるのはツライよ。
でも、私は頑張り過ぎて疲れてしまったのよ。連邦が崩壊してからの生活は
辛くて辛くてしょうがないし、今も本当に大変。」
ワシ:「○○○(元?彼氏)とはしょっちゅう電話していたじゃない」
(因みにその元?彼氏はモスクワに出稼ぎに行っていたらしい)
タトゥ:「空港で見送った時に何て私に言ったか知ってるでしょう?(アルメニアではヒドイ事)
結婚して姑にネチネチいじめられて人生をムダ遣いしたくないのよ。
もぅ、アルメニアで生活する事に私は疲れ切ってしまったのよ。
でも、彼(婚約者)の事は愛してるの、とっても。幸せになるからね。」
ワシ:「、、、、、おめでとう、お幸せに。」
後日、本当に婚約者を僕のアパートにイキナリ連れて来たのでビックリしました。アメリカ人にしては背が高くないし、ごくごく普通ー!の人でした。
でも、結婚するというのはこういうものなのかもしれないですね。まるで魔法にかかったように「勢い」に流されてしまうものなのでしょう。出合って2週間で結婚を決めるなんて、、、ちょとロマンチックですねー。
こうしてアルメニアからアルメニア女性が海外にワンサカと出て行ったケースは沢山見ています。理由は幾つもあるでしょう。
独立以後の生活が180度方向転換してひたすら耐える事のみをアルメニア政府は国民に強いてきました。
仕事は無いし、給料は安いし、インフラは壊滅的だし(最近、やたらと張り切って中心街だけ大工事をしている)、凶悪な資本主義社会になっちゃたし、政治家やら目先の利くヤツ等は自国のインフラやらボンボン売ってスノビッシュな「ニューリッチ」になっていくし、お金(賄賂)無しでは誰もマトモに働かないし、、、その他沢山。
これだけ悪条件が重なってしまったら、国民が精神的に疲れてきて荒れてこないハズがありません。いくら愛国心を声高に叫んでも、限界があります。そして、女性の方が遥かにシビアです。
そして、言わせて貰えばアルメニアの男性にも大いに責任があります。(実は一番の原因だと思ってる)勿論、全てのアルメニア男性がそうだとは言いませんが、やはり結婚した後に「女性の自由を束縛してまるで奴隷のようにしてしまう」のは改めた方が良いのではないでしょうか?
愚見ですケド、世界共通で女性が最も男性から求めているモノと言えば「尊敬」なのではないでしょうか?
この国ではイスラム諸国並みに女性に対する男性の「尊敬の念」の無さが目に付きます。それに輪をかけて、社会的な伝統とか文化的な要素がこの国の女性の地位を低く追いやっているように感じます。ですが、それが元で「タトゥ」みたいな優秀で才能溢れる女性を海外に追いやっているのです。
ひょんな事から知ったのですが、この国は今男性(アルメニア国籍)を外国になるべく出さないようにしているのだそうです。理由はアゼルバイジャンとの戦争だそうです(停戦中ですが、、、)。とにかく難癖を付けて35歳以下の男性をたとえロシアにでも出さないようにしていると聞きました。(この場合のレギュレーションとは「長期に渡って外国に住む、又は永住する」事を指すのだそうです。)
もし、戦争が再び起きた場合は例え何処に住んでいても召集をかけるのだそうです。
実際、友達の女の子のお兄さんは兵役がイヤでシベリアに逃げていってそのままアルメニアに帰れなくなったのだそうです。アルメニアに帰った途端に軍隊に放り込まれるからだそうです。
実際、独立直後にアルメニアを飛び出して行った人の中には「アルメニアに帰りたくても帰れない」人が多いらしいです(勿論、男性ですけど)。
掲示板に書き込んでくれた「アシャさん」に今日会ったのですが、彼女も「この国には仕事が無いからロシアに行って仕事をしようと思ってる」と言っていました。どうか、3年間日本の大学院で学んだ事が生かせるような職業を見つけて欲しいと祈るばかりです。
タトゥとリャンチキの共通の友人であるもう一人の女の子もやはりアメリカ人と結婚するかもしれないと漏らしていました。素敵な子達ばかりだけど、皆アルメニアを去っていくのですね。
生まれ育った祖国を離れて、家族と離れ離れになって暮らすという事は物凄い「覚悟」が必要だと思います。何処に行ってもこの頼りない病弱な「アルメニア共和国」を片時も忘れないで欲しい。そして、どうか異国の地に行ってもくじけることなく幸せな家庭を築いて欲しいとただただ願うばかりです。
タトゥ、お幸せに。