(66) 幻の村へ④
正直言って物凄く不安になりました。何も無いのです。
ひたすら砂利だらけの荒涼とした風景が続きます。
鉄道の線路らしき物が横に見えるのですが、本当に何も有りません。
今までは10分おきくらいに大なり小なり村やら町が見えてきたのですが、
ずーっと何にも無いのです。
ぬかるんだ道もなんのその!西に向かってGO!右手に見えるのが線路。
「本当にこんな場所にマラカーニの方々が住んでいるのだろうか?
と言うよりも、人が住めるのかどうかすら甚だ疑問だ、、、」
と弱気になってしまうほど、辺り一帯は本当に荒涼としています。
ですが、しばらくして道路の端っこの方に石を2、3個積み重ねた何やら「目印」のようなものが、等間隔でずーっと並べられている事に気が付きました。
「コレは何でしょうねー?」とアショットさんに聞くと
「分からないねー、何だろう」とポツリ。
しばーらく、コンクリートのデコボコ道を走っていると何やら遠くの方に民家らしきものが見えて来ました。
最初はダーチャかな?と思ったのですが、その瞬間にヒゲを生やした大男と布を被った女性を見ました。正真正銘の「マラカーニ」の姿を目にしました!
やや!コレがもしかして、、、
オォッ!ついにマラカーニ達が住む村「フィアレータヴァ」を発見ッ!!!
うぅ、、、寒いの我慢して頑張った甲斐があった。とっても嬉しい!
放し飼いの馬、左手が幻の村フィアレータヴァ。本当に、本当に小さな「村」でした。
アルメニアの平均よりもずっと家がキレイで、整っていました。とても長閑な「農村」という感じです。
遂に、捜し求めた「マラカーニ達の住む町」を発見しました。
強力にぬかるんだ泥の坂道を下って行くと、、、
明らかにアルメニア人じゃない顔、もっともっとこぅ「薄ーい顔」をした白い人達が沢山居ました。つまりロシア人です。
まず、最初に目に付いたのが男性です。しかし、彼等は特徴であるヒゲが有りません。
なので、多分未婚者なのでしょう。何やら手招きをしているので行ってみると、
若いマラカン:「ヤヤッ!お前、何人だ???初めて見たゾ!中国人か?」
ワシ:「(聞かれると思った、、、)日本人ですが。」
若いマラカン:「えー?日本人?何だソリャ?(酔っ払っているらしい)」
ワシ:「質問しても良いですか?何でアナタはマラカンなのにヒゲが無いのですか?」
若いマラカン:「俺はまだ若いからだ。」
ワシ:「ハァ?つまり結婚していないと言う事ですね?」
若いマラカン:「そういう事だ」
ワシ:「ところでこの村はマラカンばかりが住んでいるのでしょうか?」
若いマラカン:「そうだよ。何しに来たの?」
ワシ:「マラカーニの人達とはどんな人達か知りたくてイェレヴァンから遥々来ました。
村の中心部はココを真っ直ぐ行けば良いのですか?」
若いマラカン:「そうだ」
まぁ、よっぽど東洋人が珍しかったらしく沢山の人が寄ってくる事、寄ってくる事。
恥ずかしいので、とにかく車を出して貰いました。
すると、本当にマラカーニ達が沢山居ます。というか、「マラカーニ」しか居ません。
あぁ、もうこの瞬間の感動は言葉に出来ないくらいでした。
そしてまた、若いマラカンカの美しい事。聖書から飛び出して来たかのようです。
とにかくキレイな白い肌(牛乳のお陰だとだと言ってたけど、本当だろうか?)のスカーフを被った美しい女性が道の脇に椅子を並べてチョコンと腰を掛けています。
イェレヴァンで見掛けた時も、その楚々とした美しい姿が特徴的だったのですが、実際に沢山居るのを見ると、何かこぅ歴史を飛び越えて来たかのような、それでいながら200年程前から変わらずにそのままのよう不思議な美しさやミステリアスな雰囲気を醸し出しています。
が、車が通り過ぎるのを見て、僕の事を見るなり「キョトーン」としていました。
まるで「宇宙人を見たッ!」と言わんばかりの困惑の表情です。
恥ずかしい、、、穴があったら入りたい、、、ってアルメニアは穴だらけなんですけど、、、
「コレは若い人に聞いたらパニックになる」と思って、年配の夫婦を見かけるや否やつかまえて町の事を聞いてみました。すると、何やら初めて見る東洋人に物凄く興奮してしまったらしく「ぜ、是非とも家に来なさい。聞きたい事には全部答えてあげよう。その代りに君の国、日本の事を私達に教えてくれ」
予想しなかった展開に頭は混乱するばかり、、、
よくみたら、そのマラカンの男性は物凄くデッカイ人でした。
物凄いヒゲをたくわえた、僕のイメージする「古ーいロシア人」です。
彼の奥様が、またキレイな方で本当に色が白くて透き通ったブルーの瞳です。
村の中を少し案内して頂いたのですが、本当に小さな村でした。
が、何やらそれこそ「タイムスリップ」したかのような不思議な感覚でした。
その後、家にご招待されたので早速お邪魔する事に、、、
(チョット図々しかったと後になって反省)
フィアレータヴァに到着!ココは村の中心部。
まず、家に入って感じたのは広いのもそうですが壁紙が白い!という事。
アルメニア人の家で、白い壁紙というのは滅多に見た事が無いのでビックリした。
非常にシンプルで部屋の中全体が明るい感じ。
コッチも興味津々なのですが、向こうも何やら初めて見るあやしげな「ガイジン」に興味津々な様子。スグに僕の名前を覚えてくれました。
彼の名前はミハエルさん。ココで生まれてココで育った生粋の「マラカン」だそうです。
ミハエル:「何でも聞いて欲しい。その為にイェレヴァンからココまで来たんだろうからね。」
ワシ:「(ダブッった質問をしてもよいかどうか迷いながら、、、)
まず何時頃に、どのような理由で皆さんの先祖はタンボフ(ロシア)の地を離れて
アルメニアに住むようになったのでしょうか?」
ミハエル:「1837年に女帝・エカテリーナによって我々の祖先はロシアから追放された。」
コレを聞いた時、やっぱりと思った。実は、僕はあまりロシアの歴史に関しては詳しくない。
リューボフさんは1830年にニコライによって追放された、と言っていたが
恐らくたった1年で全部のマラカーニを追放したワケではなくて、ある程度の長いスパンでロシアから追い出した、という事かも知れない。
しかし、時の権力者も全員どうしたワケかマラカーニを嫌ったようですね。
まぁ、時代が時代だから異端である「異教徒」を権力者が物凄く恐れたのも理解出来なくもないのですが、、、彼等だって「キリスト教徒」なんですけどねぇ。
その後は、大体リューボフさんと同じような事を言っていました。
が、幾つか新しい事実を知れたので、ソレのみをココでは書きます。
まず、マラカーニはマラカーニ以外とは基本的に結婚が出来ないのだそうです。
出来ない事はないのですが、もし異教徒と結婚した場合は彼等の集会や彼等の教会に行く事を禁じられるらしいです。
(今回は残念ながら、彼等の教会に行く時間が無かったのでまた今度!)
かなり厳しいのですね。丸っきり禁じてしまうなんて、、、
しかし、そう言えばイェレヴァンのホテルで働いている人に
「アメリカに住むマラカンがお嫁さんを探す為にわざわざアルメニアまで来てた!」
という話を聞いた事があります。それくらい重要な事なのですね。
案外世界中に小さなネットワークを持っているのかもしれないですねぇ。
そして、彼等は絶対に十字架を受け入れないそうです。
胸の所で十字を切る事も絶対にしないそうです。
コレは以前から聞いていたので知ってはいたのですが、何でそうなのかは知りませんでした。
しかし、非常に明瞭で思わず「なるほどッ!」と頷いてしまうような答え彼は言ってくれました。
ミハエル:「十字架はイエスを張りつけにして、殺すために使った拷問器具だ。
何で、そんな凶器を崇めなければならない?我々は絶対にしない。」
あー、本当にその通りですねー。言われて初めて気が付きました。
それでロシア人でありながら家に「イコン」が無い事も納得!
彼等と喋っていて気が付いたのですが、全員ロシア語に訛りがあります。
例えば、「シトー・トゥイ・ガバリーシ(何て言ったの?)」が、「ショー・トィー・ハバリーシ」と発音されていました。
「何故か?」と聞いたら、美しいミハエルさんの娘さん達が笑い転げていました。
因みに既婚男性が必ず身に付けるの「ポーイェス」と女性の「ファールトゥック」を見せて貰いました。「ポーイェス」はベルトというよりも紐のような物でした。
そして、マラカン(男性)は結婚後は一切酒飲んではいけないし、タバコも吸ってはいけないらしいです。但し、酒はいくらか例外があるそうです。(宗教行事の時は特例らしい)
コレはロシア人にとって物凄く辛い「禁欲」のようにも思えるのですが、ミハエルさん曰く「大した事は無いよ」との事。
もはや、200年近くも祖国ロシアから切り離されて生活をしていたワケだから彼等、彼女等の顔形や名前はロシア的であったとしても、全く別の人種なんですね。
やはり、イコンの換わりに白い布が飾ってありました。
親切にして頂いたマラカンのミハエルさん。 ミハエルさんの奥様。コレはマラカーニだけのパンだそうです。
ワシ:「ココでは学校などはどうなっているのでしょうか?先生もやはりマラカーニですか?」
ミハエル:「8年制のみ、当然大学は無い。大学に行く若い奴等も稀に居る。
イェレヴァンではなくてキロヴァカンの大学に行ってるよ。
因みに教師はアルメニア人だよ。この村に二人だけアルメニア人が住んでいる。
学生数は全学年合わせて220人。教師の給料が余りにも安いからなり手が居ないのだ。
男は学校が終わって数年したら、全員兵役に就く。」
ワシ:「普段使われている言語はやはりロシア語ですよね?」
ミハエル:「勿論。でも、アルメニア語も分かる。学校で勉強をする。英語もやる。」
ワシ:「この村の人口は?」
ミハエル:「1600人」
ワシ:「全員マラカーニですか?」
ミハエル:「アルメニア人の家族も二家族住んでいるよ。」
ワシ:「この村の主な仕事とは何でしょうか?」
ミハエル:「農業と畜産。でも、こんな小さな村では仕事は限られてしまう。
だからイェレヴァンに行って建築作業員とかもしている。(やっぱり!)」
この後、ご家族のご好意で食事、、、というか復活祭に誘って下さいました。
異教徒、、、というか無宗教者なんですけど、本当に良かったのでしょうか?
まぁ、娘さんの可愛い事!本当に天使みたいッ!!!
お母さんに似たんですね。透き通るようなブルーの瞳が印象的でした。
食事の後、村の中を少し歩きました。
が、予想通り何処に行ってもジロジロと見られてしまって堪らなかったです。
随分、沢山の若いマラカーニが居るんだなぁと思いました。
カラフルで美しい「イースター・エッグ」
アショットさんと話した結果、「あんまり遅くなると帰りの道は真っ暗で危なくなる」という事で、この日は心残りだったのですが、帰る事にしました。
ミハエルさんも、奥様も「また、いらっしゃい」と言ってくれました。
まだまだ、質問したい事が沢山有るので、図々しくも言葉に甘えさせて貰おうと思っています。
今度は何かお土産を沢山持って、、、ってどんなお土産なら喜ばれるんだろう?
お酒もタバコもダメでって、、、
しかし久々に、本当に久々にエキサイティングな日でした。
また行きたい、、、